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静岡地方裁判所浜松支部 昭和43年(ワ)21号 判決 1969年4月21日

主文

被告は原告に対し金一二四万五、六三二円及びこれに対する昭和四三年一月三〇日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

本判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は

「被告は原告に対し、金二、一七一、九六二円及びうち金二、〇九三、九八〇円に対する昭和四三年一月三〇日より、うち金四〇、八〇三円に対する昭和四三年一二月一七日より、うち金三七、一七九円に対する昭和四四年二月一七日より、各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決並に仮執行の宣言を求め、

その請求原因として

「一、交通事故の発生

(一)  日時場所 昭和四一年八月二五日 午後七時一五分頃

浜松市城北一丁目一六番五号先路上

(二)  加害車両 普通乗用自動車ダツトサンブルーバード六四年式(登録番号愛五み八五二一号)

保有者 被告会社

運転者 加藤欽一(被告会社従業員)

(三)  事故の状況 原告が前記道路の横断歩道上を、南から北へ横断歩行中、東進してきた加藤運転の自動車が衝突してきたため、原告が負傷した。

二、責任原因

前記自動車は、被告会社が保有していたものであるから、被告会社は、自動車損害賠償法第三条の運行供用者として、原告の蒙つた以下の損害を賠償すべきものである。

因みに、本件事故は、運転者加藤において、進路前方左右を注視して進行すべき注意義務を怠り、対向車のライトが明るく、それに気をとられ、横断歩道にも気付かず進行したため原告を前方約四・一メートルの地点ではじめて発見した過失に基因するものである。

三、原告の蒙つた損害

(一)  慰藉料 金二、〇〇〇、〇〇〇円

原告は、本件事故当時、夫の神谷国夫の経営する東孝設備有限会社(営業は主として水道等配管工事)の経理関係の事務一切を担当していた。

本件事故によつて、腰部、両肘及び膝関節打撲症の傷害を負つた他、頭部に外傷を蒙つた。その結果、事故発生の日から三日目にして、はじめて意識を回復した状況であり昭和四一年九月一三日まで聖隷浜松病院へ入院治療を受け退院後も、頭痛、眩暈があつたため、翌四二年一月六日まで通院治療を受けた。

ところが、右症状が消えないため、被告の助言もあつて、昭和四二年一月一九日から、同年三月まで、市立半田病院で、入院治療を受け、更に、同年四月二九日まで、同病院へ通院し治療を受けた。しかし、なお、頭痛、四肢のシビレ感、眩暈が継続するので昭和四二年五月二三日より現在まで、静岡労災病院において、通院加療中である。なお、静岡労災病院での診断によると、原告の症状は、頭部外傷第三型、大後頭三叉神経症候群とされており、今後相当長期の加療を要するとされている。

右症状により、原告は、炊事など所謂家事労働は、辛うじて従事できるが、事故前に従事していた帳簿記帳などの事務その他注意力の集中を要する作業には従事することができない。今後も、なお長期に亘つてこのような症状が続き、治癒するまでの間の治療費の出損も相当多額にのぼることが予想されるので、原告の不安も大きく前記傷害ならびに長期の治癒・後遺症に基く精神的苦痛に対し、慰藉料として金二、〇〇〇、〇〇〇円を請求する。

(二)  入院室代 金一七、〇〇〇円

原告は、昭和四二年一月一九日から同年三月迄、市立半田病院に入院し、諸検査並に治療を受けたが、右入院期間中入院室代として次の金額を支払つた。

(イ)  昭和四二年一月二四日より同月三一日迄の分、金四、〇〇〇円。

支払の日は、同年二月一四日。

(ロ)  昭和四二年二月一日より同月一〇日迄の分、金五、〇〇〇円。

支払の日は、昭和四二年二月二一日。

(ハ)  昭和四二年二月一一日より同月二〇日迄の分、金五、〇〇〇円。

支払の日は同月二八日。

(ニ)  昭和四二年二月二一日より同月二六日迄の分、金三、〇〇〇円。

支払の日は同月三月一日。

(三)  治療費 金一三〇、七二二円

(イ)  金七七、三八〇円

原告は、昭和四二年四月二九日以降、昭和四二年一一月二二日までの間に、治療費として、市立半田病院に対し金三、一一〇円、聖隷浜松病院に対し、金二三六円、静岡労災病院に対し、金七四、〇三四円を各支払つた。

(ロ)  金二〇、四四三円

原告は、本件事故による後遺症治療費として、昭和四三年七月二六日に金一〇、一二一円を、同年八月一九日に金一〇、三二二円を、通院先である静岡労災病院へ各支払つた。

(ハ)  金三二、八九九円

原告は本件事故による後遺症治療費として、昭和四三年一一月八日より昭和四四年二月一四日までの間に合計金三二、八九九円(通院治療八回分)を、通院先である静岡労災病院へ支払つた。

(四)  交通費 金二四、二四〇円

(イ)  金一六、六〇〇円

原告が静岡労災病院へ通院するについて、浜松タクシー株式会社のタクシー代として支払つた昭和四二年五月二三日より同年一一月二二日迄の間の分。

(ロ)  金三、三六〇円

原告が静岡労災病院へ通院するについて、浜松タクシー株式会社へ支払つた右タクシー代で、昭和四二年一二月一六日より同四三年七月一三日までの分

(ハ)  金四、二八〇円

原告が静岡労災病院へ通院するについて、浜松タクシー株式会社へ支払つた右タクシー代で、昭和四三年七月二六日より同四四年二月一四日までの分。

四、よつて、原告は前記自動車の保有者である被告に対し、原告の蒙つた損害合計金二、一七一、九六二円及びこれに対する本訴状乃至準備書面送達の日の翌日より完済まで年五分の割合による損害金の支払を求める。」

とのべ、

被告の過失相殺の抗弁事実を否認し、

被告の一部弁済の抗弁に対し、

「被告主張の通りの別紙一覧表記載の金員を受領している事実は認める。

但し、右金額は本訴において請求していない。」

とのべた。〔証拠関係略〕

被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として

「原告主張の請求原因中

一、第一項(一)(二)は認める。(三)のうち衝突した事実のみ認めるが、その余の事実は争う。

二、第二項中、被告会社に自賠法第三条に基く、保有者責任の存する事実は認めるが、その余の事実は争う。

三、第三項不知。

四、第四項は争う。」

とのべ

抗弁として、

「一、原告は被告保有車両の寸前を横断したものであり、事故に関し、原告にも重大な過失が存する。因つて相当額の過失相殺を主張するものである。

二、なお、被告会社は既に原告に対し、治療費、休業費、雑費等として別紙明細表の通り金七九一、三四六円を支払済みであり、原告は東孝設備有限会社においては、その補助的な作業しかしておらず、原告休業中も代替者を入社せしめることなく継続して来たのであるから、右明細表中の休業補償費金二〇万円は慰藉料と相殺さるべき性質のものである。」

とのべた。〔証拠関係略〕

理由

原告主張のような交通事故が被告会社の保有する自動車により発生したことは当事者間に争がない。

次に〔証拠略〕によれば、原告が右事故により生じた負傷の治療のため、その主張のような治療費、入院室代、交通費として合計金一七万一、九六二円を支出したことが明かである。

また、被告が本訴請求の金員の外に原告に対し別紙一覧表記載の明細通り合計金七九万一、三四六円を本件事故の損害賠償として支出済であることも当事者間に争がない。

次に〔証拠略〕によれば、本件事故は、被告保有車の運転手たる訴外加藤欽一が、横断歩道を通行中の原告に、至近距離まで気付かずに進行した過失に基くこと、原告はその主張のような精神的苦痛をうけていることが明かであるのでその慰藉料は金一五〇万円と評価するのを相当とする。

但し、原告が前記のすでに支払をうけた金七九万一、三四六円のうち休業費の名目で支払われた金二〇万円は、右慰藉料のうちに充当されるべきであるから、残額は一三〇万円となる(原告が独立した収入ある業務に従事していた事実は認められないからである)。次に〔証拠略〕を綜合すると、本件事故の発生については、原告にも訴外加藤欽一の車の動静に注意すべき義務を怠つた過失があるのでこれを参酌すれば、その過失の割合は、加藤九、原告一である。

ところで既に被告より支払済の金七九万一、三四六円に、前記の治療費入院室代交通費の合計一七万一、九六二円と前記認定の慰藉料一三〇万円を加えた総計二二六万三、三〇八円が全損害額であるから、その九割である二〇三万六、九七八円より金七九万一、三四六円を差引いた金一二四万五、六三二円が、原告が本訴により請求し得べき金額である。

よつて、右の限度において原告の請求を正当として認容し、その余を失当として棄却し、民事訴訟法第九二条但書、第一九六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 植村秀三)

別紙一覧表

<省略>

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